極楽と地獄、釈迦と閻魔 ② (ショートショート)

前回からの続きです。
殆ど書き終わっているのですが、他のブログへの書き込みなどが
立て込んでいるので、行進が進まないことをお詫びします。

書き終わっているとはいえ、読み直して書き直しての繰り返しなのです。

それでは!

↓↓ ここからです。


 「おめぇの名前はなんてんだ、俺は室伏克己だ」

「俺は名乗る程のもんじゃねぇが、安田康夫ってんだ」

「格好つけんじゃねぇよ、なら名乗るなボケ」

だが、これ以上の争いにはならなかった。

こんな娑婆世界でもない死後の世界でもない訳のわからないところに連れてこられて、これからどうなるのかも知れないのに争いごとは自分に不利になることは間違いのないように思えた。

 物知り顔の男がまた口を開いた

「よく見ろよ、そこの年寄りは極楽にいるお釈迦様で、そっちの黒い悪服を着た悪人顔の男は地獄の閻魔様だろ、それしか考えられねえだろ」 周りの男達は黙って聞いていて、納得するように首を縦に振る者もいる。そんな様子を見られて閻魔様に悪い印象を持たれちゃたまらねえと思った者は頷くでもなく大人しくしていた。

 さて、と言って坊主頭の老人風体のお釈迦様が話し始めた。

おまえら、と俺たちを睨めつけ横柄に、一段高い場所から怒鳴りつけるように叫んだ。

「誰か言ってたけど俺は釈迦だ。本名はゴータマ・シッダルタという、まあそんなことはどうでもいいが」と

簡単な自己紹介のあと本題を続けた。

「これからおまえ達を地獄送りにするか極楽行きにするかの選別をする。その意味は解っているはずだ。お前らはこのままじゃひとり残らず地獄へ送るのが筋だが、自分が悪人じゃないって思っている奴は手を上げてみろ」というと数人が手を上げた。

「じゃあお前らこっち来い」手を上げた男達がお釈迦様の近くへ寄っていく。それを見ていたもう一人の大男が

「俺が閻魔だって見たら解るよな、と言い捨て前に出てきた男等をまとめて抱え込み持ち上げた。バキバキと骨が折れる音がして、ある者は尻から血を流し、またある者は首がへし折れてブラブラさせていた。眼球が飛び出して慌てて自分で掴み眼に戻そうとする者もいた。そして閻魔様は男らを抱えニヤリと笑いながら遠くに見える森との境にある真っ黒な川に飛び込んだのである。この場に残っている男達は悲鳴を上げて光景を見ていた。

「俺は悪人だから手を上げなくて良かったなぁ」

俺の隣に座っている安田が言い捨てた。

誰かがお釈迦様に聞いた

「あいつらどうなるんだ、骨も折れてるし目が飛び出たも奴だってただじゃ済まないだろ」

お釈迦様は笑いながら

「閻魔と一緒に地獄へ帰って行ったんだ。あいつらのことは心配ない、もう死んで居るんだからこれからどうなるってこともない。だからといって安心しない方がいい、あの目が飛び出した男はあの状態でこれからずっと地獄で暮らしていくんだからな、ぶら下がっている目は直ぐに地獄にいるカラスに食われちまうだろうがな。おっほっほ」笑いながら説明するお釈迦様って鬼より怖いだろうなって、そこに居た男たち全員が感じ、これは気が抜けないと額から冷や汗が吹き出した。

 酒に酔った釈迦は赤い顔をしている。極楽は旨い飯は食い放題で酒だって飲み放題って聞いたことがあるけど、まさかお釈迦様が酔っ払いだとは思わなかった。

「酔っ払いで悪かったな」釈迦がカッカッカと笑った。室伏は心の中で思っていることがお釈迦様にはお見通しだったことが解って腰を抜かした。

 なんだか見せしめのようだったが、ひとしきり怯え大騒ぎだったが、お釈迦様の続ける話で俺達は歓喜した。

「これからお前らに飯をだすからそれを食べてくれ、毎日三食の飯を用意からそれを食べるがいい」

安田が俺に言った。

「飯は残さず食べなきゃ駄目だぜ、俺達は奴らっていうか釈迦と閻魔に試されているんじゃねえのか。さっきだって、俺は悪人じゃねえって手を上げただけで問答無用に地獄行きだったじゃねぇか」

俺もそうは思っていたけど安田も同じだったのか。その夜、俺たちはおとなしく目の前の飯を食ってすぐに寝た。男らは布団もねえのかって騒いでいたけど、ここはおとなしく様子を見届けるに限る。

いつの間にか広場の真ん中に食べ物が現れた。男らは、しばらく飯なんて食ってねぇと思いだし、貪るように飯を口に運んだ。飯の量は食べきれないほど多く、みんなが食べ終わった後にも各々が残った飯をしつこく寝るまで食べ続けていた。

 翌朝、いつまでたっても朝飯が出てこない、何人かは大声を上げて騒いでいた。それでも昼近くになってようやく飯が食えるようになった。だが明らかに夕べの食料より量が少ない、それを分け合って食べた。昼飯は出たけど更に量が減っている。これじゃいつかは飯の食えない奴が出てくるじゃねえかと安田が言ったが、それが聞こえたのだろう、腕っ節の強そうな男が「おめえとおめえは飯抜きだイヤならぶん殴るからな」


 歳をとっているが腕っ節の強そうな一人男が叫んでいる「これじゃ飯の食えなくなっちまう、おい釈迦の野郎、飯を減らすんじゃねぇ」そして男は近くにいた喧嘩の弱そうな二人の男に殴りかかった。あっけなく勝負が付いた。殴った男は一人を担ぎ上げ広場の外側に広がる真っ暗な川に投げ込んだ。「ギャー助けてくれ」の叫びもむなしくやがて男の声も聞こえなくなった。男は戻るともう一人を担ぎ上げ同じように投げ込んだのである。そこはよく見ると真っ暗な川ではなく裂け目のようになっていて水は流れていない。たしか最初に見たときは小川のような小さな流れがあったが、真っ暗な様子が暗い川に見えていたものは、おそらく地獄への入り口なのだろう。男達は広場から恐る恐る縁まで近づいて下を覗いていた。だが先ほどの男が下を覗いている者達に後ろから近づき「この野郎ども、死にやがれ」と大声で叫んで後ろから押して地獄への入り口に落としてしまった。「あはは、俺に逆らう奴はこうしてうやる」これからは飯が来たら全部俺に渡せ、お前らには俺から分けてやるからな。と目をつり上げ口を半開きにして叫び続けていて、この男の尋常じゃ無い振る舞いに、その場にいた男達全員が驚いていた。

 「あいつの名前知ってるぜ」俺の隣に座っている安田が教えてくれた。「あいつは俺たちの組で狙ってた男だ。うちの組長に刃物を向けやがって確か近藤七朗って名前だったな」室伏もやくざのプライドが出て遅れを取るまいとつづけた「近藤七朗、その名前は俺も知ってる」裏の社会では有名な奴で、だけど誰の言うことも聞かない奴で、一匹狼を気取っていた。乱暴者と言うだけで無く何を考えているのかも解らない、とにかく怖いものなしの行状が誰からも恐れられていた。「あいつも死んだんだな」安田はあいつと目が合うとやっかいだから、それだけは気をつけておこうぜ。やくざ界隈に詳しい安田が言うことだから間違いないだろう。しかし俺が殺した安田と安田を殺した俺がこんな風に親しげに話をするっていうのも世の中の常識から見ても不思議だ。死後の世界なんてけっこう穏やかな空気が流れているのかも知れない。さっき七朗に突き落とされた奴はあのまま地獄へ行ったのだろうか。落とされるとき大声で叫んでたな「地獄へ行きたかねぇよぉ、わああ」叫び声がいつまでも聞こえたからどこまで深いのか解らない。黒い川に見えていたが、気がついたら深い暗黒の海の様でもある俺たちには恐怖だった。



まだまだ続きます。

読んでくれて有り難うございます。

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