極楽と地獄、釈迦と閻魔 ① (ショートショート)

 長文のため何回かに分けてアップします。
文章のカテゴリーはショートショートにしておきましょう。

物語を書き始めましたが八割がた書いていますが、まだ完成に至っていません。
書き始めると面白くて、完成させずにダラダラと書いていると言った方がよさそうです。
それでは!

タイトルは:無いので、仮に「極楽と地獄、釈迦と閻魔」にしておきます。

↓ここから始まりです。


 いつの世のことかは定かではないが、おそらく人間が猿から進化した頃から、そして人間が絶滅するまで続いていくのだろうか。人間の愚かさと欲と暴力。繰り返す悲劇はまるでどこにでもある喜劇だ。

 俺は死んでしまったらしい。

室伏克己、四十七歳だ。まだ働き盛りの年齢だが、生きていても世間に迷惑を掛けてばかりだから死んだ方がいいだろうと神様が決めたのだろう。突然のことだったけど俺は覚悟をしていた。生きているとき俺は悪の限りを尽くした。喧嘩に強盗、恐喝に脅し、などは可愛いもので、女性への暴行、最後には殺人にまで手を染めてしまった。反社会的組織の抗争で俺は日本刀を持って対立する組へ殴り込みを仕掛けたのだが、奴らは銃を持って、俺たちの突撃を事務所の中に居て待ち受けていたのだった。事務所に押し入ると奴はなんの躊躇もなく俺を撃ちやがった。俺は勢いよく突進したから銃で俺を撃った奴の頭を正面から切りつけていた。俺もそいつも即死だった。事務所の入っているビルは、入り口から事務所のドアにかけて監視カメラでこちらの動きが手に取るように解るようになっている。そのことは招致していたのだが頭に血が上っていて、そして死ぬことも恐れていなかったのだ。


 死んだときのことは思い出すけど不思議と痛い感覚はなかった。

 気がついたら俺は道を歩いていた。暗くて肌寒いけど時々吹く風は生暖かく血の臭いがした。

 歩いているうちに気を失っていたのだろうか、次ぎに目を開いたときは短い草の生えている広場の真ん中に座っていた。あたりは先ほどと違い暖かく、すうっと鼻の奥に通ってくる匂いが心地よかった。

 空は青く雲は一つもなかった。だが不思議なことに太陽はなく、どこからの光が届いているのか解らない。それでも辺りは明るく景色は遠くに森のような木の茂みが続いているように見えるだけだった。

 そのこうしているうちに俺は「死んじゃったのかな、ここは極楽か、まさか地獄の入り口なのか」って頭を巡らせていた。人殺しをした極悪人だ、地獄へ落ちることも覚悟していたのだが、これから苦しいお仕置きが待っていると思うと身体がぶるっと震えた。だが目の前に見える景色が緑の草原と遠くの木々と青い空。余りにも穏やかすぎて自分の置かれている状況がいまいち掴めなかった。ふと人の気配を感じた。


 周りを見渡すと数十人の男達が輪を作って中央を見つめていた。さっきまで俺一人だった筈だ、いつの間にこんなに人が集まったのだろう。

 この場所は広場になっていて芝生のような草が敷き詰められているように生えている。広場と遠くの森の間には真っ暗な溝があり、大きな地面の割れ目のように見えた。周りの景色が先ほどとは違っている。どういうことだ。いつの間にか人々は輪になって中央に向かって座っていて、真ん中には大きく土が盛られたようになっていて二つの大きな椅子が現れていた。


 我に返って手で額を触ってみると頭がぐにゃりと歪んでいる。拳銃で頭を撃たれたんだな、頭を撃たれて死んでもこうして生きているのは何故だ。目も鼻も耳も使って、全身で辺りをみると、風も吹いていないし、鳥も飛んでいない。

「やはりここは地獄か」と呟いた。


 辺りがざわついてきた、広場に座っている男の一人が立ち上がり

「おいジジイ、ここはどこだ俺たちは何でここに座らされているんだ」

俺の疑問を代弁するように叫んだ。

 中央にはいつの間にか男が二人現れて椅子に腰掛けていた。

一人は真っ黒な髪が長く、髭まみれの顔をしている。身なりも真っ黒な服を着ていて、まるで鎧のような服だ。もう一人はそうとう歳をとっているようだ。坊主頭で痩せ細り、身体には水色のすり切れている布を纏っているだけだ、ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべ見下したように、気の毒そうにこちらを睨んでいた。顔は酒でも飲んでいたのか赤くなっていて、目がうつろな感じがして、酔っ払いの物乞いの老人のような雰囲気だった。


 坊主頭の老人が口を動かした。

声はものすごく小さいが言っていることは鮮明に聞こえ頭にスウっと入ってくるような話し方だ。耳をそばだてて聞いているとこんな事を言っている。

「あなた方は死んだのだ残念だったな、ここに居る者の顔をよく見るとよい」ここに集まっている男達は周りを見回してそれぞれの顔を見ているが、中には「人の顔をじろじろ見るんじゃねえ」と怒鳴ったり「なんだ、おめぇ木村じゃねぇか、おめぇ知ってんのかここはどこだよ」と知り合いだったり、結構せまい世間の仲間内の集まりのようだった。

 室伏にも知った顔があった。それだけでホッとするものだが、自分が悪人であることを隠さないような人間である。その知り合いとて悪人であり、抗争の相手の若いチンピラだったりする。

「こりゃ気が抜けないな」口をついて出た言葉は近くに居た男にも聞こえてしまったらしい。

その男は頭が半分がないのだが、残りの半分を手に持っていた。

「ここがどこだか知らねえけどみんな知ってるだろ、ここが何処かを知ってしまうことが怖くて仕方ねぇんだな」


 痩せている男が話を続ける。

「お前らは死んだと言ったが、死後の世界にはまだ行けないのだ。お前らの娑婆での行いによって行くところが違うのは知っておろう」男達はざわめいた。

「死んだらよお、天国か地獄のどちらかに行くんだよな」

ある物知り顔の男が

「天国じゃねえ、極楽ってんだ、地獄はその通りだが、いくつも種類があるらしいぜ、血の池地獄とか針の山なんてのもあるらしい」

「そんなこと知ってら、おめえうるせえから黙ってろ」

さっきまで静かだった広場が、一変怒号の行き交う修羅場と化した。


 ここに集められた男達はその顔つきを見ても解る。全員が悪人達である。

「あれ、おめぇってこの野郎」よく見るまでもなく俺の隣には俺を殺した奴が座っていやがる。先ほどの頭が半分しかない男は、俺が振り下ろした日本刀をまともに頭から受けてしまって、致命傷になり即死だっただろう。

そいつは

「おおよ、俺がおめえを殺して、おめえが俺を殺したってわけか、いってこいじゃねぇか」

死んでしまったんだ、しかたがねぇ勘弁しろよ。と訳のわからない事を言い出したが、目の前には閻魔様もお釈迦様もいるんじゃ喧嘩も出来やしねえな。とあきらめの気持ちで諍いは起きなかった。

 男どもの輪の中心にいる人物は、名乗らなくともその出で立ちでお釈迦様と閻魔様であることはすぐに皆は理解したようだ。

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