手だれ

 手だれ (優れた腕前の持ち主)


 まだ少年の面影を残し、美しい顔と芸事に秀でた16歳の光輝く男。

名前は光源氏と呼ばれる。本名は明らかにされていないが、その輝くばかりの美しさから「光る君」と「女君」から呼ばれ、いつしか「光る源氏」、すなわち「光源氏」と呼ばれるようになった。

光源氏は世間で言われているような女たらしではない。どちらかというと奥手で口数も少ない。子供の頃は若くして亡くなった母親を求め、夜、夜具に入るとシクシクと泣いた。父親はそんな光源氏を心配して、後妻を迎える決心をした。

表向きは光源氏のためという口実で後添えを迎えたが、実際には自分のためであった。しかも、妻となる女君は前妻と瓜二つの若い女性であり、歳も光源氏と四つしか離れていない。

幼い頃から母のいない光源氏が、まだ若い継母に恋をするのは避けられないことだったのかもしれない。光源氏は口実を作っては継母の部屋に出入りし、甘えるのである。継母の方も、自分とそれほど歳の離れていない光源氏の来訪を嫌がることもなかった。

光源氏が18歳になったころ、継母の部屋に入り、突然涙を流した。継母が「如何されました」と問うても泣くばかりであった。

「光さまはもう18歳になられました。子供のように泣いてばかりでは可笑しいですわ」

継母も、光源氏が泣き虫であることは承知している。このまま帰すのも可哀そうだと思った。継母のお腹には夫との子を宿しているのだから、このまま光源氏と契っても、不自然なことは何もあるまい。そう考えた継母は、光源氏をその夜、自室に留めた。

その夜、光源氏は自分の部屋には帰らなかった。しばらくして、継母に子が生まれた。

「光さま、可愛い子ですわね」

そう言っただけなのに、光源氏は言葉も出ず、全てを飲み込み唸った。継母は光源氏を手中に収めたと確信した。夫にもしものことがあっても、自分の後見は盤石である。若くて美しい男君である光源氏は、継母の思いのままとなった。

源氏物語では、光源氏が桐壺帝の後妻である藤壺と浮気をするが、実は藤壺の方が一枚上手であったという物語である。

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