ショートショート、四桁数字の女(坊ちゃん文学賞投稿用)(原稿用紙10枚)

投稿用 ショートショート

タイトルは「四桁数字の女」

ここに出てくる女性の特徴は、コレを書いた私のことです。
4桁の数字をみて、自動車のナンバープレートを連想します。
すると頭の中に画像が浮かびます。しばらくするとその画像が動き出して
勝手に物語りが始まるのです。

  職場の先輩が運転するクルマの助手席に雅子は座っていた。

仕事の話をしながらと言いたいところだが、40代の男性社員の吉永は、仕事には熱心では無いようだった。それでも吉永は職場をまとめる課長なのだ。吉永は隙あらば若い事務雅子と二人きりなれないかと考えていた。
「ねえ、雅子ちゃんって彼氏いないんだって」
吉永さんはニヤニヤ笑いながらセクハラに近いことを私に聞いてきた。
「その質問はセクハラですよ、若い女子にそんなこと言っちゃダメですよ」って半分笑いながら応えた。
 雅子は話をそらすように前から来る対向車のナンバーを見て思わず大声で笑った。吉永さんは、わたしのバカ笑いを不思議に思って
「なにがそんなに可笑しいの、知っている人でも乗っていたのかい」
仕事中だしこれから大事な商談に行くクルマの中で笑い出したわたしに少し不愉快そうにそう訪ねた。
「だって課長、さっきのクルマって可笑しくないですか」
「なにがそんなに可笑しいのか解らない、なにが?」
「さっきのクルマのナンバーって、川上から流れてきた桃を割ったら中から小さな熊が出てくるんですよ」
運転していた吉永は雅子の方に顔を向けた。
「あのクルマは、3173だって可笑しいね」
「ナンバーを見て可笑しいねって、なにがそんなに可笑しいんだよ」
吉永はわたしが一人で面白がっていることに苛ついているようだった。
「3173って数字はフォークリフトで持ち上げた雪だるまがフォークの間から落っこちるところだよ」
運転中なので雅子の顔をじっくり見るわけにもいかず吉永は突然の雅子の発言にどう対応したらいいのか解らなかった。雅子は25歳で恋人がいるような噂はまったく聞こえてこない。
 吉永は「へえ雅子ちゃんにはそんな風に見えるんだ、凄いじゃん、っていうかあり得ないし」
吉永は子供を相手にするように凄いねといいながら全く凄いなんてことは思っていなかった。
「吉永さんには見えないんですか」
雅子にとっては子供の頃からあった能力だった、普通のことだと思っていた。誰もが数字を見ると頭の中に景色が現れたりそこに人や動物が現れたらいつの間にか動き出し物語が始まったりするのかと思っていた。わたしには四桁の数字を見ると物語が見えてしまうという症状?いや能力?があるのだ。
 さすがに大人になった今では、自分だけが持っている能力だと理解しているけど、もしかしたら自分と同じ人も居るのかなって、唐突に能力を発揮して相手を試すことがあった。
「雅子ちゃん、じゃあ」と指を指し
「あのクルマのナンバーはなにが見えるの」
「あのクルマ?6830だからエプロンを着けた太ったおばさんが買い物かごを持っているよ」
「次のは2129は海から飛び上がったトビウオがスッと形を変えて折りたたみのナイフになってる目だけがまん丸でギョロッとこっちを見ている」
 吉永は最初はニヤニヤしながら聞いていたけど雅子の真面目な顔で言葉にする景色とその映像の不思議さに驚いていた。
 次の朝、雅子はオフィスの机に座っていた。後ろからポンポンと吉永に肩をたたかれた。ちょうどその時間は吉永と雅子しかいなくて肩を叩かなくても声を掛けてくれればいいのに、女子の身体に気安く触るなってことなんだけど吉永はいつものように、ニヤニヤした笑顔で話しかけてきた。
「雅子ちゃん昨日の話の続きをしようよ」
昨日の話とは私の特別でありながら、全く役に立たない能力のことだ。わたしの話を聞いても面白くないのに、それに興味もないでしょうに、こちらから進んで話をするようなことでもない。わたしが子供の頃から高校を卒業するまで何人かの友達に話してきたけど
「そんなことあるわけないじゃん」で興味をもって聞いてくれる友達はいなかった。
 この時間は仕事中で同僚達は営業に出かけていった。吉永は出かけるような雰囲気を出しながら外出の準備をわざとゆっくりとやっていた。
吉永はわたしに話しかけるチャンスを見計らっていたのだ。座っているわたしの横に来て「俺の誕生日は8月16日なんだ。だから0816って四桁数字になるけどなにがみえるのかなあ」 
「0816だと良く晴れたスキー場のゲレンデの下の方にあるちょっと高級そうな三階建ての建物があって、入り口の前には万国旗が立っている。雪で陽に焼けた欧州系の美人が白い帽子とスキーウェアーを着ているよ」
 吉永は雅子の異様生を認めこの能力をどうにかしてみたいと考えた。 もっとよく調べてみよう。吉永は図書館へ行ったりネットで同じような能力があるかを調べていた。
「雅子さん、この能力って、あれだよ共感覚ってやつかもね」
雅子も「あたしもそう思うの共感覚って数字に色が付いて見えるとか、音楽を聴いていると臭いがするとかそう言うのでしょ、テレビで観たことある」だから四桁数字を見たら景色が見えるのも有るのかなって。それだけじゃなくて、そのうちその景色が動き始める。
「長いこと放っておくと登場している人物が友達を連れてきたりして物語になるの」誰しもが超能力や特別の能力に憧れたりするけど、雅子は自分の能力は邪魔かな、無くてもいいやって思う。本当に役に立たないものだった。だが悪いことばかりではなかった。ある日9341って数字を頭に浮かべていたら女子高生が現れ、文学部の部活動風景が見えた。そのうち文学部の部員が4人に増え、大学を卒業したばかりの美人教師が文学部の顧問をしていた。こんな物語が1年半も続いて幻覚にも似た景色が物語へと育っていた。雅子はあまりに文学的な物語だったので女子高生にユキちゃんと名前をつけブログを開設したこともあった。とても楽しい思い出だった。いつもこの能力を利用して何か出来ないかなと考えていたし、誰かにそのことを解って貰いたいと思っていたが、現実と頭の中の物語の二つの人生を歩むわけにもいかず、頭の中の文学部の活動は主人公の卒業で無理やり幕を閉じたのである。
 数日後、吉永は下心も隠さず雅子に近づいて
「雅子さん今日も一緒に配達に行くからね」と声を掛けた、クルマで配達と営業の業務をしていたとき話が弾んだ。吉永のことは、いつも嫌らしい笑顔で話しかけてくる気持ちが悪いのだ。仕事以外では積極的に接触しないようにしていた。だが自分の能力のことに興味を持ってくれたことは嬉しかった。
 吉永は雅子の能力について「俺もたくさん本を読んだよ、君みたいな人は珍しいらしい」いつものように誰からも好感が持たれないような笑顔でこちらを向いた。
吉永は「同じ数字を見ても文字の色とか大きさで見えるものが違ってくるかも知れない。四桁の数字の向きを変えてみたり、フォントを変えたらどうなるんだろうね」そんなこと考えたこともなかった。雅子はいつもクルマを運転していて、前から走ってくるクルマのナンバーを見て景色を頭に浮かべる。街中には四桁数字が溢れているけど、その数字をクルマのナンバーに頭の中で変えている。たとえば電話番号なんかも下四桁をクルマのナンバーに変換している。もし変換しなかったら違う景色が見えるかも知れない。雅子は試しにスマホのアドレスを開いて適当に電話番号を凝視してみた。電話番号でも景色が見える。
「4810だから茶色の鰹節を野球のグローブを嵌めて鰹節削り器で削っているのが見えた」
そして吉永が同じ数字をA4サイズの紙に太いペンで書いてみたらなんと、巨大な工場でコンビナートに乗った荷物が行ったり来たりしている。鞄からピンクのマーカーペンをだして紙の裏に書いてみた。
「ベッドで寝てる女性の上に黒い人影が上下に動いている」これってちょっとエッチな景色だ。そのとき景色の中の女性が声をあげて絶頂を迎える所だった。雅子は吉永にこんなのが見えたと話した。
吉永は「やっぱりそうか、数字の大きさや色やフォントを違えると上下運動が前後になったりピストン運動になったりするんだな」吉永の話を聞いていたが面前にあるピンクの数字にすっかり魅入られたようになり雅子はうっとりと目を閉じて顔を歪め始めた。
 吉永は雅子の戸惑った表情を見逃さなかった。これはスゴいもっとスゴい景色を見させてやろう。なんなら物語に発展させてその中に俺が入り込めたら現実世界でも面白いことになりそうだと、ニヤニヤしながら雅子を見つめ続けた。
 次の日も課長という立場を利用して吉永は雅子とクルマで出かけた。クルマの中では実験と称していくつもの数字を雅子に見せていく。四桁数字は0000から9999まで一万の数字があるが、十数回の試みで、これだけの成果が現れたのは凄くラッキーだと言える。2288これは自分がベッドに寝ているところ。そして7733は今にも男が女性を襲うところだと言う。2288を色がピンクで匂うような輝きと、下の方はしっとりと濡れて触ると湿り気が手に付いてしまうような感じで書いた。3377は黒くまさに黒光りしながら蛇が鎌首をもたげているかのような荒々しい数字を書いた。この数字を別の紙に書き、雅子に見せる。吉永の嫌らしい企みに気づいた雅子は
「やめて、何をする気なの、あたしを虐めるようなことは止めて」
「ははは、もうここまで来たら止められない。俺はおまえのことが好きだった、しかし俺を避けるようなおまえの態度が気に入らなかった」
 吉永は数字の書かれた紙を雅子の目の前でヒラヒラさせた。雅子はきゃーと叫んで懇願した「ほんとに止めて」「いまさら止められるこうしてやる」
 吉永は2288と書かれた紙を置き、その上にもう一枚を重ねてて上と下の紙を激しくこすり合わせた。雅子は目をぱちぱちさせて、そして大笑いした。
「数字が見えなきゃなにも起きないじゃんバカじゃん何してんねん」
 吉永は雅子の言葉が聞こえなかったのか、紙を叩いたり曲げたり丸めたり、さらには舐めてみたりしたが数字が見えていない状況では何事も起こらなかったのだ。

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